東京高等裁判所 昭和51年(ツ)120号 判決 1978年12月26日
上告人 槍田安三
右訴訟代理人弁護士 小林英雄
被上告人 高筒皐
<ほか五名>
右六名訴訟代理人弁護士 古川清
主文
原判決を破棄する。
本件を水戸地方裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人小林英雄の上告理由第一点について
原判決はそれぞれ挙示の証拠によって本件境界紛争の経緯、本件係争地及び(五)の土地の東側の私道の現況、登記簿上及び実測による各関係土地の面積を認定し、これらの事実関係を総合して本件境界の位置を定めたものであるが、その最も重要な根拠となったものが、第一審鑑定の結果によって認定された関係各土地の実測面積及び公簿上の面積の過不足の関係であったことは、原判決を通読すれば疑を容れる余地がないところ、右原判決挙示の証拠中には成立に争いのない甲第五号証法務局公図写が存在し、これには(一)ないし(五)を一団とした土地と、同所四八一九番の一、及び同番の二を一団とした土地の境界線(以下「後背地境界線」という。)は単純な一本の直線ではなく、二つの直角に近い屈曲点を持つZ字形の線として表示されており、一方同じく原判決が認定に用いた前記鑑定の結果の記載された鑑定書(図面添付)には、後背地境界線が完全な一本の直線として表示されているのであって、原判決は、右鑑定の結果を全面的に採用して、前述の実測及び公簿上面積の比較を行っているのであるから、鑑定書に記載された後背地境界線の位置をもそのまま採用したものとせざるをえない。ところで公図は実測図と異り、線の長さ、面積について正確を期待できないことはいうまでもないが、各筆の土地のおうよその位置関係、境界線のおうよその形状については、その特徴をかなり忠実に表現しているのが通常であるから、原判決は右甲第五号証を事実認定の用に供しながら、しかも後背地境界線を単純な一本の直線であると認定する以上、特段の理由を附すべきが当然であると思われるのに、これを附していないのであって、原判決には経験則違背または理由不備の違法があるといわねばならず、右違法は原判決認定の面積関係の比較が正当かどうかに疑を抱かしめ、延いて判決の結論に影響を及ぼすことは明らかで、この点に関しては論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく原判決は破棄を免れない。そして更に事実上の点につき審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。
よって民事訴訟法第四〇七条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 髙木積夫 清野寛甫)
<以下省略>